安部首相は、アベノミクスの成功で日本経済が上向きになり、景気は確実に回復していると声高に叫ぶが、私たちの頭にはクエスチョンマークが3つくらい付いたまま。そこで、経済学者・浜矩子氏を迎えての講演会よりエッセンスをお届けする。
「アベノミクス」という得体の知れない言葉に翻弄されてはいけない。YWCAのミッションは、一人ひとりが大切にされる社会を実現することにあると聞くが、このままではどんどん一人ひとりが大切にされない、互いに傷つけ合う社会になっていきそうだ。
『強さ』にこだわる首相
安倍首相は、就任以来「強い日本を取り戻す」ことに執着している。2014年年頭所感では強い日本を取り戻すに続き、強い経済、誇りある日本を取り戻すと『取り戻す』を三回も使った。強い経済を取り戻せば日本は強くなり、誇りを持てる、つまり誇りの源泉は『強さ』だという。力と強さに対するこだわり、あこがれがはっきりと表れている。このために見るべきものを見ず、考えてはいけないことを考えるようになる。
『成長』より『分配』を
現状における日本経済の本当の課題は、『豊かさの中の貧困』問題だ。世界で最もリッチな経済社会・日本のただ中に貧困がある。非正規雇用者、ワーキングプアなど枚挙にいとまがない。この『富の偏在』を直さない限り日本経済はまともに回っていかない。2012年度日本の相対的貧困率(*)は16.1%で、主要先進国34カ国中29番目に悪い数値を示している。このことに目をつむり、強さばかりに目を向け、成長を叫ぶが、必要なのは『分配』である。限りなくすべてを手に入れてしまった今の日本に必要なのは、手に入れた大きな富をいかにみんなで分かち合うか、ということだ。しかし、彼はこのことを見ようとしない。
国家は国民の幸せのために尽くすもの
では、考えてはいけないこととは何か。それは国民と国家の関係を逆転させようとすることである。国民に奉仕する、国民の幸せのために尽くす国家ではなく、国家のために奉仕する国民へと仕向けようとしている。日本再興戦略2014年度版『未来への挑戦』では強い経済を取り戻すことに加え、国民の稼ぐ力を取り戻すのが喫緊の課題であるといっている。安倍首相は、国民一人ひとりが稼ぐ力を取り戻すことを「自分の課題として、生産性向上のために邁進してほしい、総員奮励努力せよ」と言っている。
一つの認識と一つの心得、そして三つの道具
経済活動を営むのは人間が人間たるゆえんであって、経済が人間を不幸にするはずはない、との認識と、「己が欲するところに従えども『矩(のり)』を超えず」(孔子)との行動倫理(心得)をもつこと。そして、物事を正確に聴き取ることのできる、傾聴する耳と、人の痛みを自分のこととして受け止めることのできる、涙する目と、さしのべる手、この三つの道具を持ってすればアホノミクスに惑わされることなく世の中を向こう側に導くことができるのではないか。
*相対的貧困率とは・・・
国民を所得順に並べて、真ん中の順位(中位数)の人の半分以下しか所得がない人(貧困層)の比率を意味する。2012年度の場合一人あたり約120万円以下の比率をさす。
(文責 編集部)
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