30年前のチェルノブイリ事故以来、欧州諸国は脱原発を目指しては挫折するという繰り返しでした。福島事故を機に、ドイツは「現世代の利便のために未来世代に負の遺産を遺すことはできない」として、数年以内の脱原発の意思を固め直しました。スイス、イタリア、ベルギーなどもこれに続きました。原子炉は冷却水を注入できないとどうしても暴走します。その意味で、どうしても残余リスクも残ります。
「日本よりも国土の狭い経済先進国は脱原発する」。これは私の提唱した経験則です。国の存亡が懸るからです。その国の観光も終わりです。小さな国は「確率の問題」などと悠長なことを言っていられません。一方、中国とアメリカは、国土は広いのですが、ここ3年風力や太陽光発電導入に非常に熱心になり、世界最大の導入速度競争を繰り広げています。
欧州ではすでに再生可能エネが原子力のシェアを抜いた国々が多くなりました。スペイン、スウェーデン、デンマークもそうです。EU政府は2008年トリプル20計画で2020年までに再生可能エネの全エネルギーに占める比率を20%に高めるよう域内諸国に指示しています。欧州諸国はこれまで値段の高い再生可能エネを買い支え、量産効果によってコスト低減の努力をしてきました。ちょうど福島事故の起きた2011年、最も高価だった太陽光発電も家庭が購入する電気代と競合できる設備価格に下がってきました。これが中国と米国の本格参入を招いた主要因です。
にもかかわらず、日本がぐずぐずしている理由は何でしょう。それはさら にその後のことにまだ政府や産業界が自信を持てないからと思います。すなわち、原子力を置き換えるだけなら再生可能エネと省エネで十分やれる。問題はその後で、化石エネをほぼゼロにしていこうとするときに、原子力抜きで再生可能エネだけでやっていけるかどうか。原子力をいったん放棄してしまうともはや再開できないとする恐怖感を持っているからです。その意味では、欧州もまだ放棄に至っていません。
私は、数年のうちにその先が見えてくると思います。再生可能エネの導入を日本でも素早く進め、欧州の状況と照らし合わせて、その次の計画の準備ができるでしょう。
(北澤 宏一 東京都市大学学長、前民間事故調(福島第一原発事故独立調査委員会)委員長、前科学技術振興機構理事長)
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