4月29日から5月3日まで韓国光州(クワンジュ)で「抵抗と平和」と題した光州事件*30周年記念シンポジウムに参加しました。民主化抗争がテーマの演劇や美術展の鑑賞、民主化抗争ゆかりの地巡り、光州YWCAへの訪問も行いました。
今年は日本による強制併合100年の年。この民主化抗争への全斗煥(チョンドファン)による苛烈な弾圧の仕方がかつての日本による帝国主義支配の暴力性の再現であり、日帝的な支配構造は独立後も連続していたという重い事実を突きつけられました。
日本YWCAは昨秋の全国総会で、東アジアと太平洋地域の人びとへの謝罪と未来に向けての決意表明を行いました。その過程で、決して言葉だけの謝罪に終えてはならないことと、東アジアの市民と協働して平和な未来を築くための決意表明でなくてはならないことを確認しました。
言葉による謝罪のみで、植民地支配の真実究明をおろそかにし、被害者の痛みを身をもって受け止めないならば、それは犯罪的です。民主化運動で89年に捕えられ水攻めの拷問を受けた画家洪成潭(ホンソンダム)さんの靖国神社をテーマにした絵画は、骸骨となった今も日帝のくびきに縛り付けられている2万余に及ぶ朝鮮人兵士の無念さを伝えています。遺族からの靖国神社への合祀取下げ訴訟は全て却下されました。「従軍慰安婦」と強制連行労働者への国家補償問題、歴史教科書からの事実の抹消など、朝鮮半島の人々への植民地支配の罪責を清算していないばかりか、朝鮮学校への高校授業料無償化の適用除外のように新たな差別を押しつけています。この現実を支えているのは、私たちの中にある、かつてと同様の植民地主義的な心性だと思います。私たちに必要なことは、政府の理不尽な政策の犠牲者の声に耳を傾け、問題解決のために粘り強い行動に踏み出すことです。
東アジアの市民と協働して平和な未来を築くために指針となるのは、2001年に南アフリカのダーバンで開催された国連の人種差別反対世界会議の「宣言」です。植民地主義が人種差別や外国人排斥、不寛容をもたらし、アフリカやアジアの人々・先住民族が今なおその被害者であり続けていることを認めた画期的な条項が含まれています。強制併合100年を機に、明治以来の日本が冒したアジアの人びとへの加害の事実を直視し、私たちにも引き継がれてきた無意識の植民地主義を反省することなくしては、平和な未来は築けないとの思いを新たにしています。
*全斗煥(チョンドファン)軍政下の80年5月18日に始まり、27日に戒厳軍の大弾圧によって敗北した光州市の学生・市民による民主化抗争。韓国では「5・18民主化運動」と呼ばれる。
石井摩耶子(東京YWCA会員、日本YWCA前会長。恵泉女学園大学元学長・名誉教授。
日本平和学会会員。)
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