関西空港から約3時間半で到着するリゾート地グアムは淡路島ほどの大きさで、人口は約17万人である。アジア・太平洋戦争中、日本はこの島を占領し、多くが犠牲となった。 戦後は「未編入領土」として米国の支配下にある。「州」ではないが、納税義務もあり、米国軍隊に入隊もできる。しかし連邦議会での議決権や大統領選挙での選挙権はない。
日本のホテルが集まる観光地の面積は僅かで、島の面積の約3割は米軍基地が占めている。グアムは軍事基地の島でもあるのだ。人口の一割近くが米軍関係者で、先住民族チャモロの人々は約四割、フィリピンや米国本土などからの移住者が約五割である。
沖縄の「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」はグアム、特にチャモロの女性たちと、脱軍事化のための連帯を数年前から構築している。沖縄とグアムを相互に訪問したり、「外国軍基地撤廃世界会議」(2007年、エクアドル)や「帝国抜きの安全保障♂議」(2009年、米国)など、米軍基地に関する会議に共に参加したりしている。
現在、直面している問題は、在沖縄海兵隊8000人のグアムへの移転計画である。これは2006年5月に日米政府が合意≠オた「在日米軍再編ロードマップ」で示されたもので、沖縄の負担を軽減≠キるためだという。
米軍基地の撤去を求める沖縄の市民運動の中でも、当初、グアムへの海兵隊移転を歓迎する声が少なくなかった。だが、「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」の高里鈴代氏らは、移転への反対を明確に主張してきた。負担の軽減″への疑問、また、人を殺す訓練をしている兵士や実戦への準備が地域の人々の安全な生活を脅かす軍事基地はどこにも要らない≠ニいう考えが主な理由である。しかし、それだけではない。グアムの歴史と現状からは、日本と米国による沖縄の植民地的支配と同じ構造が見えるからである。チャモロの女性たちも移転に反対しているが、グアムの政治にチャモロの人々の声は反映されにくい。
女性たちの国際的な連帯は沖縄とグアムだけでなく、日本、韓国、フィリピン、ハワイ、プエルト・リコなど米軍が駐留する地域の女性たちと米国本土の女性たちによるものであり、武力によらない、人々のための安全保障の実現を目指している。海兵隊グアム移転計画への反対は、海兵隊の沖縄駐留を認めるものではない。沖縄とチャモロの女性たちは、軍隊そのものをなくす脱軍事化を求めているのであり、軍事基地を押しつける植民地的支配からの脱却を求めているのである。
この声にどう応えるか。日本の市民の責任は重い。
秋林こずえ(立命館大学国際関係学部准教授、婦人国際平和自由連盟(WILPF)国際副会長)
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