この20年ほど、日本の教育現場では、東アジア諸国との関係や相互理解が重視され、日本の侵略の事実についても、以前よりはしっかり教えられています。ところが、日本だけでなく韓国や中国・台湾でもときとして噴出する幼稚なナショナリズム、それによる不毛な対立感情は、十分克服できていません。なぜでしょうか。
日中韓など東アジア漢字文化圏の国々には、共通の欠点があります。古くから、国単位でものを考える発想、上下関係を気にして上ばかり見る態度、異文化や多様性への嫌悪感などが強すぎるのです。近代にはその土台の上で、多くの人々が欧米コンプレックスとアジア蔑視を受け入れてしまいました。その際には、東アジアの美徳であるはずの勤勉性やきまじめな向上心が、コンプレックスから来るいがみ合いや、隣人への無知・不信感を増幅した面があります。人々は「すなおにまじめに熱心に」白人崇拝や西洋式のアジア蔑視を学び、身につけてしまったのです。
あえてきつい言い方をすれば、こういう欠点を共有する同士だけでいくら交流しても、不毛な対立から抜け出す道は見えないと思います。ではどうしたらいいでしょうか。
必要なのは、「欧米と漢字文化圏しか見ようとしない発想からの脱却」でしょう。たとえば日中韓と深い関係をもつ東南アジアを見ると、そこにも、アメリカを撃退したベトナムに見られる、強烈なナショナリズムがあります。しかしそれは、東アジア型の硬いナショナリズムではありません。
東南アジアには、中国に平気で頭を下げて「朝貢」し貿易の実利をえてきたような、柔軟さがあります。ベトナムは社会主義圏や世界の反戦運動の力をたくみに利用してアメリカを撃退し、シンガポールやマレーシアは、先進資本主義国の戦略をみごとに利用して、発展した工業国になりました。問題や弱点はあるものの、現代のASEAN諸国は国際紛争やテロの防止にかなり成功しています。
みなさんも、このように「いいかげん」に見えて「したたか」な世界を学んでみませんか。ちがった視界が開けることはうけあいです。そして、ここ大阪は、いたずらにケンカをせず、肩肘はらず気楽に、しかし抜け目なくあちこちに気を配って、実利をしっかり取る、そういう動きの先頭に立つのにふさわしい場所ですよね。
(大阪大学文学研究科教授、「大阪大学歴史教育研究会」・「海域アジア史研究会」代表
桃木至朗
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