引き分けに終わったワールドカップギリシア戦に日本中がため息をつき、自民党による集団的自衛権行使容認の閣議決定準備が大詰めを迎えていた6月21日。パレスチナYWCA総幹事ミラさんから、一通のメールが届きました。「イスラエルの若者3人が行方不明になった事件をきっかけにイスラエル軍と入植者の暴力がヨルダン川西岸地区全体で激化、370人のパレスチナ人が拘束され、4人が死亡、少なくとも7人が重傷を負った。どうかパレスチナの難民や子どもたちのために祈り、あなたの国の政府に対して働きかけてほしい」。パレスチナYWCAが、世界に向けて発信した緊急アピールでした。(全文は日本YWCAホームページ、トップページ7/9のNEWS)
その翌週には若者たちの遺体が発見され、イスラエル首相は公然とパレスチナへの復讐を宣言。ガザ地区への空爆に続き、とうとう地上侵攻が始まり、20日あまり経った現在のパレスチナ人の死者は1,118名。その大半が非武装の一般市民で、数多くの女性や子供が犠牲になっていると伝えられています。家を失った人は2万4千人以上。24万人を超える人々が国連施設などに避難しています。(2014年7月29日現在)
一般市民に死者が多いのは、イスラエル軍が主に「民家」を攻撃しているからだ、と、国連は報告しています。赤十字の病院を含む医療機関や学校、上下水道施設など、ガザの人々にとってなくてはならない生活施設が空爆の対象になっており、その非人道性と、国際人権法を無視した攻撃に非難の声があがっています。
しかし、日本のテレビや新聞は、人道面について触れることはあっても、国際法違反の面をクローズアップすることはほとんどありません。対して、国連や人権団体はもちろん、英国ブレア首相をはじめとする各国首脳、欧米を中心とする大手メディア、そしてパレスチナYWCAからの2回目のアピールも、論点の中心をイスラエルの攻撃が「集団的懲罰」であること、しかもそれが「民間人を狙った攻撃」であることの二点に置き、ともに国際法違反であるとイスラエルを強く批判しています。
日本の大手新聞が、イスラエルのガザ攻撃を、あくまで「復讐と暴力の連鎖」「まきこまれる一般市民」といった情緒的な言葉で表現し、明確な国際法違反である「集団的懲罰」だと、そして、一般市民は「まきこまれ」ているのではなく「イスラエル側がミサイル攻撃のターゲットにして」いるのだと書けないのはなぜでしょう。わたしたちの社会は、自民党の強引な憲法解釈が通ってしまうほどに、憲法や国際法といった、通常の法律より上位にくる法に対する意識が薄く、それがこのような報道を許す一因になってしまっているのかもしれません。
毎日新聞の報道によると、昨秋ある国立大学で約100人の学生にきいたところ、限定的容認を含めて半数以上が行使容認に賛成する一方で、日米同盟について「強化」を求めた学生は2割もいませんでした。7月17日付毎日新聞の論説は、「若い世代は盲目的な対米従属を良しとはせず、日本の自主的な外交と自立を望んでいる」としています。それを実現するためには、「紛争が止まないこの現実の世界のなかで、わたしたち日本人は、平和のためにどうしたいのか」という論議が早急に必要なのはいうまでもありません。パレスチナは、わたしたちの弱点を浮き彫りにし、わたしたちに課題をつきつけています。「あなたたちは、パレスチナの、そして世界の平和のためにどうしたいのですか?」と。パレスチナは、平和を求める人々にとっては決して人ごとではなく、あくまで「わたしたちの問題」なのです。
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