りさーら

(大阪YWCA国際部パレスチナグループ発行ニューズレター)

第11号 2003年7月発行


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今、パレスチナで起こっていること

アブラさんの講演を聞いて


2003/5/27

『今、パレスチナで起こっていること』
〜パレスチナYWCAからのゲスト、アブラ・ナシルさんを囲んで〜

千里と梅田の両会場で、パレスチナYの総幹事アブラさんから話をうかがいました。静かな口調ながら、占領下に暮らす厳しさがひしひしと伝わってきました。豊富なスライドからもパレスチナの現状を垣間見ることができました。以下はアブラさんのお話の一部です。

*       *       *

占領下のパレスチナの日常生活を表すいくつかのキーワードがあります。その一つが「チェックポイント」です。チェックポイントでは銃を持ったイスラエル兵がパレスチナ人の行き来を監視しているのです。西岸地区に120箇所、ガザ地区に21箇所のチェックポイントがあります。ラマッラにある自宅からエルサレムのYWCAまでは車で20分ほどの距離なのですが、今ではうまくいっても1時間以上かかります。何箇所ものチェックポイントを通過しなければならないからです。特に老人にとっては、自宅がすぐそこなのに、チェックポイントで長時間待たされるのは辛いものです。しばしばイスラエル兵ともみ合いになります。

封鎖と外出禁止令も私たちの生活を脅かします。外出禁止令が出されると、昼も夜も家から一歩も出ることができません。それが何日続くのかも分かりません。子だくさんのパレスチナ人家庭では、狭い家の中に閉じ込められ、走り回る子ども達と時間をやり過ごすのはかなり辛いことです。やがて食べ物も底をついてきます。お腹をすかせた子どもたちに食べ物を買いにいくことも出来ない様子を想像してみてください。

家屋破壊も頻繁に行われます。不審な行動をとる人物がいれば、集団懲罰として付近一帯の家が破壊されます。パレスチナ人にとって家を持つということは、単なる財産という以上の特別な意味をもつことで、小さいころからコツコツとお金をためて家を建てるのです。その家があっという間にブルドーザーで破壊されてしまう。過去2年間で2万人人以上の人が家を失いました。

元は我が家だった瓦礫の山に座り、老人が子どもにパンを与えているこの写真は、とても悲惨な光景です。しかしまた同時に、どんな屈辱をあたえられても、次の世代を育てていくのだという力が湧きあがってくるのです。

私たちの生活はまた、恥辱と恐怖と死に満ちています。上の写真に写っているのは、軍服を着ていなければ見た目だけではイスラエル人かパレスチナ人か分からない2人の若者ですが、銃を持つイスラエル兵の前に衣服を剥ぎ取られてしゃがみこむ姿は、力ある者と全く無力である者、その隔たりを映し出しています。

2人の子どもが手をつないで振り返る先にはイスラエル軍の戦車が控えています。けれどもこの子達の進んでいく先には平和な未来があると信じたいのです。 私の祖母はオスマントルコ支配下のパレスチナに、両親はイギリスの委任統治下のパレスチナに生まれました。私自身はイスラエルの支配下のパレスチナに生きています。これから生まれてくる子ども達がパレスチナ人が統治するパレスチナに育つことが出来ればと願います。 日本に来て、たくさんの人の善意にふれました。残念ながらそれはパレスチナでは感じることが少ないものでした。力を得てパレスチナに帰ります。
(文責:宮崎)


占領下の現実の一端を知らされ、衝撃を受けました。アブラさんに直接お会いしてパレスチナを身近に感じた一時でもありました。日本にいて出来ることは何なのだろう、と考え込んでしまいますが、「あなた達のことを気にかけている」という想いをパレスチナに送りつづけたいと思いました。


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アブラさんの講演を聞いて

  • 年ごとに侵食され、分断されていくパレスチナの人々の生活圏。かつては隣り合って平和に暮らしていた人々が、憎しみを増幅し続けている現状をどう断ち切ることができるのか? "地に平和・人々に平和"の実現のために今、何をすればよいのか再考しました。

  • 印象に残ったのは、裸にされて銃口を突きつけられているイスラエルの青年二人が写っている写真です。「同じくらいの年頃の、顔だけみればどちらがパレスチナ人かイスラエル人かわからないこの二人が、こういう立場にそれぞれおかれていること――パレスチナの青年は屈辱を受け、イスラエルの青年は人間の尊厳を踏みにじっている――このような状況を変えなくてはならないのです。」という言葉には共感を覚えながらも、その状況を許している中に自分もいることを同時に感じました。

  • パレスチナ問題は一度では理解できないくらい民族や宗教、政治的外交などの様々な問題が非常に複雑に絡み合っていると思いました。遠かった問題を身近に感じさせられ、目をそむけてはいけないと痛感させられました。

  • 世界中の誰もが争うことなく、幸せに暮らすことができたら…。それは、子どもたちも大人たちも大多数の願いとしてそれぞれの胸の中に存在する願いだと思います。しかし、この願いとはうらはらに戦争が起こる原因・人間や国同士の利害関係は、とても複雑にからみあっています。どうしたら解決できるのか?平和を願う気持ちはあるものの、その気持ちから一歩、二歩、十歩、百歩と踏み出さねば、理解も実現も出来ない…。自分の無力さと平和の遠さを思い知る結果となりました。しかし、この思いを痛感できたことを出発点として考え、小さな何かだとは思うのですが、次の行動を起こしていきたいと思いました。

  • パレスチナ自治区では、イスラエルの入植地がどんどん拡大し、パレスチナ人の行き来が妨げられている。イスラエル軍によって頻発される外出禁止令や家屋破壊。自由が奪われ、暴力と恐怖の日常生活。言葉の裏にある語り尽くすことが出来ないほど多くの苦難と悲しみがひしひしと伝わってきた。絶望に近い状況下においても未来に希望を託し、暴力によらず闘っているパレスチナの女性たちの存在を知った。平和は、国家の枠を越えて人々が出会い繋がることで実現されると思った。アブラさんと出会ったことを平和への一歩としたい。

  • 現在進行中(?)の『ロードマップ』もパレスチナ側の『妥協の妥協の、そして更なる妥協の産物』であるとファドワさんは語ったが、パレスチナ自治区が、西岸地区の22%に過ぎない事実が物語っているように、パレスチナ人の人間性崩壊を目指す妥協であることに、はらわたが煮えくり返ります。これはパレスチナ人だけの問題ではなく、私たちに突きつけられている課題であることを、改めて痛感した集いでした。

今回、アブラさんによる講演会の感想を書いてくださった方々に、お礼を申し上げます。


アブラさんから手紙が届きました。

友人の皆さまへ

 滞在中思いやりあるサポートを頂き、私と同僚のハイファが伝えたパレスチナ問題について、真剣に耳を傾けていただいたことに、この機会を借りて改めて感謝の意を表したいと思います。 私はこの滞在中にお会いしたそれぞれの方々から多くのことを学びました。日本の皆さんとのパートナーシップをとても心強く思います。そして私がお会いした一人一人の方との友好をきっといつまでも大切にしていくことでしょう。
(中略)
 ハイファと私は、あなた方との特別な思い出を家族や友人たちと、YWCAと同僚たちと一緒に分かち合っています。わたしは日本のYWCAでお会いした皆さん一人一人の顔を覚えています。
 そして、皆さんに親しみをこめて。

パレスチナYWCA総幹事      アブラ・ナシル


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