大阪YWCA会報(大阪版)

2006年6月号(抜粋)


<目 次>

[一面]
「採用試験でも分かるメディアの人権無視  〜報道のあり方を考える〜」
 同志社大学文学部社会学科教授 浅野 健一

[二面][三面]
「イラク戦争からみえてくるもの 〜報道されない戦争の陰で〜」

YWの窓
 「子ども時代の豊かさ」

男の目
 「夫婦・・・そして、川柳」


「採用試験でも分かるメディアの人権無視」

 〜報道のあり方を考える〜

同志社大学文学部社会学科教授 浅野 健一

 あるメディアに内定したある学生から先日電話があった。「興信所の人が、近所を回って私のことを聞いている。マスコミって、そんなことまでするのですか」。
 日本のほとんどの大手報道機関が採用試験で憲法違反の身元調査をしていることは知られていない。メディア研究者が問題にしないからだ。私が22年間勤務した共同通信社も興信所を使っている。調べるのは国籍、思想信条、宗教、親の職業、前科前歴などだ。
 コネ入社も少なくない。女性枠が決まっていて、女性は男性の四分の一程度しか受からない。明らかな性差別だ。外国人、心身障害者の採用に極めて消極的だ。「勝ち組」の若者しか採らないのだから、権力監視をできるはずがない。
 また、幹部の知的退廃も深刻だ。ある大新聞の面接試験を4月中旬に受けたある学生は、大学で「死刑と人権」について研究し、昨年8月『弟を殺した彼と、僕』を出版した原田正治さんに聞き取り調査したことを話した。ところが、面接員の社会部長は「君は固有名詞をいろいろ出すが、そんな人の名前は誰も知らないよ」と言い放った。原田さんについて詳しく説明すると、「それで初めて分かったよ」と述べた。
 原田さんは末弟を殺人事件で亡くし、加害者である死刑囚と異例の面会に臨み、テレビにも何度か出演している。面接の2日後、その新聞社の紙面に、原田さんの写真入りで、「死刑囚と面会『心動いた』」という大きな記事が載った。社会部長は自分の無知に気付いただろうか。
知るべきことを知らせないのが、こうしたダメな幹部のいる大新聞、テレビだ。
 「専守防衛」のためにある自衛隊が戦車や無反動砲を持ってイラクへ派兵されているのは憲法、自衛隊法に違反していると私は思う。ところが、去年初めからイラクには日本の大メディアの常駐特派員は一人もいない。自衛隊が何をしているかは自衛隊広報を通じてしか伝わらない。フリー記者が命がけでイラクへ入っている。大マスコミの記者は恥ずかしくないのか。
 韓国のネット新聞「オーマイニュース」のような、常に民衆の側に立つメディアが日本にも必要だ。

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 「イラク戦争からみえてくるもの 〜報道されない戦争の陰で〜」

 2006年3月4日、大阪YWCA千里でイラクの子どもを救う会代表 西谷文和氏による講演会が行われた。氏が現地で得た情報や写真の数々はイラクの現状を生々しく伝え、戦争の現実と裏側を伝えるものであった。報道されなくなってもイラク戦争は終わっていない。

劣化ウラン弾 劣化ウラン弾は原発燃料の廃棄物で、日本も無関係ではない。劣化ウラン弾は湾岸戦争で初めて使用された対戦車用の兵器であるが、戦車を貫く際、エアロゾロ化したウランは空気中にばらまかれる。湾岸戦争、イラク戦争で戦車に向けて発射された劣化ウラン弾はイラク全土を汚染した。

バグダッド子ども病院 劣化ウラン弾による放射能の影響で子どもの白血病やガン、先天性障がい児出産はますます増えている。バグダッド子ども病院では、湾岸戦争時に被爆した親から生まれた子どもたちと、さらに今回のイラク戦争で被害を受けた多くの子どもたちがいる。医療機器等の不足により、治療もままならない状態にある。

戦争の民営化 講演では砂漠に埋められた兵士の遺体が映し出された。その写真はアメリカ兵ではなく、1日10万円とも言われる日当で軍事会社に雇われた貧しい国々の傭兵だという。彼らは何を訴えているのか。
 現在、イラクの危険箇所はPMC(民間軍事会社、日本での報道はなぜか民間警備会社と誤訳された)が守っている。そして、今イラクで殺し合いをしているのは貧しい国からやってきた傭兵と石油や仕事を奪われた貧しいイラク人である。こんな「不正義な戦争」に協力してはならない。

大義なき戦争  この戦争に大義はなかった。イラク戦争前、国連で戦争に反対したのは、フランス・ドイツ・中国・ロシアだった。日本は憲法9条をもちながらアメリカに無条件で賛成した。
 戦争を始めたアメリカの政治家たちは軍事会社の関係者で莫大な利益をあげ、国は石油の利権を守ったという。そして日本はほとんど議論もなく自衛隊を1年延長した。一つの偽メールを巡って与野党あげて大騒ぎをしたが、根拠もなくイラク戦争を支持した責任については問いもしない。
 イラクに関する放送の量は2年前より格段に減った。しかし、イラク戦争は終わっていない。むしろこれから悲劇は広がっていく。報道した新聞やテレビを励まして欲しいという西谷氏に言葉が残った。
(文責:大阪版編集委員会)

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YWの窓
「子ども時代の豊かさ」

  「うちの娘ら、ほんまによう遊ぶんよー。」 これは私の一番の自慢なのだが、なかなか「自慢」として受け取ってもらえないのが悔しい。柱一本、或いは道路に映る自分の影だけでも遊べる。
 友だちと遊びたい、という意欲もすさまじい。田舎町は校区が広く、友だちの家は遠いが、私は野良仕事に忙しく、「送り迎えは週1回だけ」とにべもない。それでも遊びたい娘は、幼稚園の頃から、1.5キロ先のお友だちの家までひとりで歩いて行ったものだ。
 そう言えば、わが家には電気・電池で動く玩具がひとつもない。ついでに言えば、テレビもビデオもない。
 私の子育ての原点は、フィジーの村の子ども達がキラキラ輝き知恵に満ちていた、という記憶にある。おもちゃもボールもなんにもない中、大きい子も小さい子も思いっきり遊んでいた。人に対する関心がカラダを貫き溢れ、命のきらめきと、そして礼儀正しさを備えていた。
 「モノがなくても賢く育つんやなあ」から、やがて「モノがない方がいいのかも」の気づきへ。お手軽で便利な暮らしより、手間ひまかけた暮らしが人間を豊かにするように思えてきた。
 「何して遊んだらいい?」と聞かれた記憶がない。多分退屈した経験がないのだろう。どんなときにも、何もなくても遊べる「野ガキ」。日本ではほとんど絶滅危惧種かもしれない。日本の、世界の全ての子ども達に、「子ども時代の豊かさ」を。
(会員)

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男の目
「夫婦・・・そして、川柳」 

 ( )の中は題
 新婚の頃は何するにも二人(二人)
  てな感じで始まる夫婦だが、我が家は今年で結婚32年目。よう続いとりますです、ハイ!
 出て行けと云うたら出て行った誤算(誤算)
  なんて事件はなかったが、いくつかの山も谷も乗り越えてきてはいる。しかし、どんな時も
 非常時になるとさすがの妻である(さすが)
  で、自分は感心するばかり。感心で思い出すのが、
 妻だけがようけ約束覚えてる(約束)
  これはもう、超実感句であり、そんな事云うたかなぁ・・・なんて全く通じない。しかし、
 困ったら必ず妻の方を見る(方)
  これが、現実。ぐうたら亭主としては、
 女房のてのひらに乗り自惚れる(自惚れ)
  を自認している。が、実際30年以上も経つと
 生活に追われていても腹は出る(出る)
  と、体型も変わってくるし、その腹を見ては
 長生きをしてねとおかず削られる(削る)
  これは悲しい。そんな暮らしの中、自分では
 妻がいてくれる間に幕にする(幕)
  つもりでいるのだが、妻は多分、いや、きっと、
 その時のために夫を飼っている(いざ)
  毎晩、保険証書など眺めているのだろうか??
(YWCA会員の夫)

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