大阪YWCA会報(大阪版)

2003年6月号(抜粋)


<目 次>

[一面]
無名の人
笠原芳光

[二面][三面]
◇秘かに深く進む放射能汚染
劣化ウラン弾がもたらしたもの

―イラク訪問報告会より―

◇男の目
 同級生たち

◇YWの窓
 一人の一歩

[四面]
◇2003年度 大阪YWCA委員会等組織

その他



無名の人

 イエスは無名の人である。
 死後、キリストにされたため世界でもっとも有名な人物になったが、イエス自身は無名の人であり、当時も、そしてこれからも無名であり続けるだろう。だからこそイエスへの関心は深まっていく。
 無名とはなにか。古代中国の書『老子』の第一章には、「無名は天地の始め、有名は万物の母」とある。小川環樹はその後半を「有名は万物のそれぞれを育てる母にすぎない」と訳している。無名は天地の根源であるが、有名はそれを育てるものでしかない。有名よりも無名のほうが大切なのである。
 多くの人が有名人に憧れ、いつかは有名になりたいと願っている。だが有名人とはテレビなどのメディアによって、世間に知られている人物をいう。それはつぎつぎと入れかわる存在であり、一時の価値にすぎない。
 かつて中国の指導者毛沢東は、すぐれた人物になる条件としてつぎの三つをあげた。若いこと、貧しいこと、無名であること。これらはすべて、いわばマイナスの条件である。そのマイナスが人間を真の人間たらしめる要因となる。
 だが、毛沢東はのちに年をとり、富裕になり、有名になった。そして晩年、彼が指導した文化大革命は民衆の自由を弾圧する誤ちを冒した。無名を唱えた人が無名性を失ったからである。
 すぐれた人物とは、たとえ世に知られるようになっても、無名性を失わない人をいう。無名性とは人間の根底にある負を自覚することである。権威や権力を求めないことである。
 人間が社会的な存在であるかぎり、指導者は必要だろう。だが、その指導力は人間の対等性、相互性を自覚することから始まる。
 福音書によればイエスは癒された病人に対し、「あなたの信頼があなたを救った」と言った。神が救ったとも私が救ったとも言っていない。また、ふつう「信仰」と訳されているが、原語ピスティスは、この場合、「信頼」と訳すのが正しい。イエスの救済は相互主体的なものであり、上下の関係ではないから。
 イエスは従来のキリスト教では、かなり誤解されている。イエスは無名の人であり、いまだに知られざる存在である。そこからイエスへの新しい探究が始まる。

笠原芳光
京都精華大学名誉教授
大阪YWCA専門学校講師(比較宗教学)


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YWの窓

一人の一歩
去る4月、マサチューセッツ州の*MSPCCの理事シンシア・ジョンソン氏からアメリカのサポートの現状をうかがった。
 DVの被害を見て育った子ども達へのケアの現状はどうなのか気になっていた私には絶好の機会だった。
 母親のDV被害の渦中にいて母親と同じように深く傷ついた子ども達はDVから逃れられても生活の困窮、病気、PTSDなどつらい状況はなかなか終わらない。
 シンシア氏によればDVを見て育った子ども達は社会への信頼感が育ち難い場合があり、家庭内のDVをどのように捉えたかによってはDVの連鎖に繋がることも有り得るとの事。これを断ち切るのは大変難しく、その為の専門家のセラピーの重要性を熱心に説かれた。官民双方の協力で運営されているシンシア氏の施設では、セラピーも父親との面会も子どもの意志を最も尊重して行われているという。日本との大きな違いはこの原点であった。
 MSPCCの活動の長い歴史から見ると日本の取り組みは始まったばかり。つらい今を生きている子ども達の意志が尊重され、彼ら自身を取り戻す闘いへのサポートは難しい事だ。専門家ではない私だがもう一歩踏み出せそうな思いを持った時間だった。
(会員)

*Massachusetts Society for the Prevention of Cruelty to Children


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